応急危険度判定

概要

被災建築物応急危険度判定。

大地震により被災した建築物を調査し、その後に発生する余震などによる倒壊の危険性や外壁・窓ガラスの落下、付属設備の転倒などの危険性を判定することにより、人命にかかわる二次的災害を防止することを目的とする。

被災後すぐに、応急危険度判定士のボランティアによる協力のもとに、地方公共団体が被災建築物の調査を行い、その建築物が使用できるか否かを応急的に判定する。

調査は無料。

罹災証明のための建物調査や、復旧のための被災度区分判定とは異なる。

地方公共団体が主体となって進めるため、被災住民からの申請は必要ない。

応急危険度判定士

登録要件は各都道府県によるが、建築士(建築士法第2条に規定する1級、2級、木造建築士)であること、各都道府県に居住もしくは勤務していること、判定士の養成を目的とした講習会を修了していること、等である。

判定活動に従事する場合、常に身分を証明する登録証を携帯し、「応急危険度判定士」と明示した腕章及びヘルメットを着用する。

判定方法

各市町村が震災直後の応急対策の一環として、応急危険度判定を実施する。

応急危険度判定士が二人一組となり、構造種別(木造・鉄骨造・鉄筋及び鉄骨鉄筋コンクリート造)ごとの判定調査表に基づいて調査する。

外観調査が基本。

要請や必要に応じて使用者等の承諾を得て、内観調査を行うこともある。

危険と思われる建築物には、立ち入らないで調査することになっている。

判定は大きく分けて、以下の2つの観点から行われる。

  • 余震等による建築物の崩壊による危険度 (柱の被害や建築物の傾き等を調査)
  • 建築物の部材等の落下や転倒による危険度(瓦や窓ガラス、外壁の落下等の可能性を調査)

いずれかの危険度の高いほうを、その建築物の危険度として「総合判定」を行う。

判定結果

「総合判定」に基づき、以下の三種類の「判定ステッカー」(色紙)を建築物の出入口等の見やすい場所に貼ることにより、建築物の利用者・居住者だけでなく、建築物の付近を通行する歩行者にも安全であるか否かを容易に識別できるようにする。

  • 「危険」(赤紙)
  • 「要注意」(黄紙)
  • 「調査済」(緑紙)

また、判定ステッカーには、判定結果に基づく対処方法に関する簡単な説明及び二次災害防止のための処遇についても明示し、判定結果に対する問い合わせ先も表示してある。

「危険」(赤紙)

この建築物に立ち入ることは危険です

立ち入る場合は専門家に相談し、応急措置を行った後にして下さい

「要注意」(黄紙)

この建築物に立ち入る場合は十分注意してください

応急的に補強する場合には専門家にご相談ください

「調査済」(緑紙)

この建築物の被災程度は小さいと考えられます

建築物は使用可能です

判定結果における注意事項

前述の通り、外観からの診断である。

危険回避のために、基本的に厳しい判定になることが多い。

例えば、「屋根の瓦の一部が落ちそうなので」という理由で、危険や要注意判定になったりもする。

何が危険かを確認して避難や対応を検討すること。

被害拡大の恐れがある場合は、判定結果に関わらず、すぐに避難すること。

「危険」の判定結果でも、修復できる場合がよくある。

専門家(建築士等)に相談すること。

この判定は、各種支援制度に必要な「罹災証明」ではない。

罹災証明の調査は、別に実施される。

危険と判定されても、罹災証明の全壊や大規模半壊などと判断されない場合もよくある。

判定による影響と課題

家屋内の片付けなどに、ボランティアが各家庭に派遣されたりもするが、応急危険度判定の内容によっては対応ができないとする場合もある。

活動するボランティアの安全を確保するために、「危険」や「要注意」判定の建物での活動は引き受けないという方針を決めた事例もある。

このままでは、危険や要注意と判定された家はボランティアの支援を受けられない。

対応策としては、危険判定の理由が「瓦の一部が落下しそうだから」であれば、ひと手間で落ちそうな瓦は取り除ける。

プロボノチームと連携して、こうしたケースに対応すると危険を除去していくことが可能である。

これにより、危険(赤)や要注意(黃)から調査済み(緑)に変えることができ、ボランティア活動の幅を広げることができた。

被災住民からすると、ある日突然判定が家に貼られるということもある。

応急危険度判定というものがあり、罹災証明とは別のものであるという周知徹底が必要。

判定が罹災証明だと思い手続きに行かなかったり、自宅はもう住めないとショックを受けたりするケースがある。

課題と現地での対応事例

阪神・淡路大震災では、震災翌日から、他府県の応急危険度判定士の応援を受けて第1次危険度判定が実施された。

対象は4階建て以上の建物で、神戸市では「使用禁止」の貼紙が貼られた。

第2次判定は、共同住宅を対象に3段階の評価方法で行われた。

実施にあたっては、建設省(現:国土交通省)を中心とする「応急危険度判定支援本部」が設置され、35都道府県の技術者などが参加した。

建設省の呼びかけに応じ、民間団体のボランティアによる「被災度判定体制支援会議」も発足し、地元行政機関および地元民間団体と協調しながら、巡回建築相談員として戸建住宅の危険度判定支援等を行った。

応急危険度判定の趣旨が市民に十分理解されず、罹災証明発行のための被害調査と混同されたり、判定に関わる家主・借家人間の利害関係がトラブルとなるなどの問題があったが、被災者の間に安心を与えたという点では非常に有意義だった。

交通手段がないために徒歩や自転車がほとんどで、判定作業は過酷なものとなり、トイレの問題も深刻だった。

余震の続く被災地内を歩き回るため、判定士の安全確保、労務災害補償の問題も指摘された。

参考

参考文献:阪神・淡路大震災教訓情報資料集【02】被災建築物の応急危険度判定

被災建築物応急危険度判定協議会