概要
FM(エフエム)放送の電波を使用する放送局で、臨時災害FM局とも呼ばれる。
1995年の阪神・淡路大震災の経験等を踏まえ、平成7年2月に制度化。
災害の被害を軽減することを目的として、地方公共団体が情報提供のために臨時に開設するものである。
被災者の救援や生活支援のための放送が主。
資格
臨時災害放送局の開局には、放送局の免許が必要になる。
しかし緊急時であることが考慮され、「臨機の措置」として電話(口頭)で免許申請ができる(災害から時間がたつと書類審査に移行する)。
臨時災害放送局の開設方法は、以下の2パターン。
- 被災自治体が免許人になり新しく立ち上げる場合
- コミュニティ放送が臨時災害放送局に移行する場合
東日本大震災では29市町が中継局を含め、のべ 35 局の臨時災害放送局を開設、運用した。
費用について
臨時災害放送局の免許人は自治体であるため、CMを出せないというのが一般的な考えであった。
しかし最近では、臨時災害放送局の制度上には、CMを出してはいけないという記述がない=CMを出してもよいという考え方になっている。
ただし、CM放送については被災地の状況やリスナーの反応を十分考慮したり、免許主体の自治体との協議を行うなど慎重な判断が求められる。
臨時災害放送局の運用費用は、基本的に自治体の負担となる。
しかし過去の大きな災害(東日本大震災、熊本地震、北海道胆振東部地震)などでは緊急支援助成という形で、日本財団によるサポートがあった。
他にも、企業や支援団体からのサポートを受けたところがある。
東日本大震災後に開設された各地の臨時災害放送局の運営には、国の緊急雇用創出事業を活用しているところもある。
国の費用で自治体の負担なく臨時職員を確保できるだけでなく、災害によって職を失った地元住民を雇用できるという点は大きなメリットである。
事例
おだがいさまFM(福島県富岡町)
広域避難で災害FMが活用された事例である。
東京電力福島第一原発事故により、全町避難を余儀なくされたなかで、町民の多くが一次避難した郡山市のビッグパレットふくしまにミニFMとして開局された。
一時避難所の閉鎖に伴い一度は終了したものの、2012年3月に臨時災害放送局として再開、2018年3月30日まで運営された。
再開後も、郡山市富田町の仮設住宅内にある「おだがいさまセンター」にスタジオを設置して富岡町外からの発信が続いた。
運営は富岡町社会福祉協議会。
避難生活が長引くなかで町民の避難先が多様化し、全国の電波外にいる町民でも放送が聞けるようにと、インターネットラジオでの配信も行った。
町は希望者約3,800世帯にタブレット端末を配布した。
常総災害FM(茨城県常総市)
情報発信として、多言語放送がされた事例である。
常総市は、2015年9月10日に鬼怒川の決壊によって大きな被害を受けた。
東日本大震災で災害情報を発信した経験も生かして、水戸コミュニティ放送局が常総市に申し出て開局し運営した。
そして9月14日に常総災害FMの放送をスタートさせた。
放送では、ライフライン・避難所などの情報、無料入浴や炊き出しなどの支援情報などを放送した。
市民の6%が外国人という常総市の特性に対応するために、常総市に拠点を持つNPOが、被災者支援と情報発信のための拠点を9月17日にオープン。
ポルトガル語など多言語に翻訳した情報かわら版を発行するが、なかなか思うように情報が伝わらなかった。
そこで、各言語を母語とするキーパーソンを市内で探し、彼らに翻訳やラジオ放送に協力を依頼。
9月22日から、ポルトガル語・スペイン語・英語での多言語放送を開始した。
キーパーソンに協力してもらうことで、国籍や言語でつながっていた外国人コミュニティに情報を伝えることができるようになった。
災害FMの放送は2015年11月30日まで続けられた。
参考情報
福島新聞、「2018年3月で終了 富岡町の「おだがいさまFM」」、2017/12/28
Radio Juntos en Español (31 Octubre 2015) Joso
ラジオ「Juntos」(2015年10月11日放送分)が視聴できます!
市村元「東日本大震災後、27局誕生した「臨時災害放送局」の現状と課題」(2012)
総務省信州総合通信局「臨時災害放送局 開設・運用の手引」(2019)
今後に備えて臨時災害放送局開設等の手引〜東日本大震災の経験を生かすために〜