広域避難

概要

災害の対応は一番近い地方自治体の業務だという通例がある。

そのため避難所には、基本的には同じ市町村内の施設や場所が指定される。

しかし、被害区域が広範囲でその地域外での避難が望ましい場合や、近隣の市町村への避難が適切な場合などに、市町村外での避難をする広域避難が実施される。

広域避難が必要になるような場合、地域が大きな被害を受けている場合が多く、被災者も多い。

複数の市町村が同時に被災し、広域避難が実施されると所在の確認がとても困難になる。

都道府県域を超える場合はさらに状況把握や行政サービス・支援提供が難しい。

事例

三宅島(2000)

2000年の9月2日に島民全員が島外へ避難する全島避難が開始され、9月4日には全員が本島への避難を完了した。

渋谷区に設けられた一時避難所に避難するが、9月8日までに都営住宅などへの転居が行われる。

なかには、親戚などを頼って東京都外へ避難した人もいた。

短期間で約3,800人が一斉に一時避難所から移動したために、島民同士でも誰がどこにいるのか所在が分からない状態が発生。

島民の生活支援のために立ち上げた「三宅島災害・東京ボランティア支援センター」では、島民の住所を個別調査し、避難先住所録を作成している。

個人情報保護の観点から、地方自治体からは避難先については開示されないことが多い。

この所在確認は広域避難において重要なポイントで、支え合いセンター設立などの見守り支援の上でも課題となる。

全島避難から4年5ヵ月後に避難指示が解除された。

島民が島へ戻った後も、生活再建支援として4年半住まれていなかった家や地域の清掃支援活動が実施された。

参考:意外と知られていない、三宅島噴火災害の支援活動(前編)
   意外と知られていない、三宅島噴火災害の支援活動(後編)

東日本大震災(2011)

津波で大きな被害を受けた、岩手県や宮城県だけでなく、東京電力福島第一原発の事故により、福島県でも広域避難が必要になった。

熊本地震(2016)

震度7の地震が2度発生するなど、大きな揺れが何度もあり、複数の市町村が記録的な被害を受けた。

「県内のみなし仮設の入居者29,094人のうち、24%に該当する7,022人が被災前とは別の県内市町村に転出して入居」しているというデータがある。

なかでも特に被害が大きかった益城町や南阿蘇村は、被災によって入居可能なアパートやマンションが不足したこともあり、みなし仮設の入居者の70%以上が他市町村である。

参考:「みなし仮設住宅」入居24%が転出者 別の県内市町村に 県の調査で判明 /熊本

課題

広域避難の大きな課題は、もとの市町村を離れてしまうことによって生まれてしまう距離である。

それまでの生活の基盤だった家から離れてしまうことで、通勤通学にも大きな支障が生まれる。

また、自宅と避難先との距離があることは、自宅の片付けや復旧が遅れる原因にもなる。

物理的な距離が生じることで、普段のご近所さんと会える機会が減り、地域での行事などへの参加も難しくなる。

そうした交流の機会を失うことで、孤独感が増大し精神的な落ち込みが発生することもある。

必要な支援1:情報支援

物理的な距離により、さまざまな情報へのアクセスが難しくなることが多い。

家の近くの掲示板や防災無線がなくなってしまい、行政の動きや支援情報などを知る機会が減ってしまう。

こうした硬い情報以外にも、直接投函されるチラシやご近所さんとの会話がなくなることで、友人知人の動向や地域の動向などの柔らかい情報の入手が難しくなる。

前述の三宅島では、連絡先が分かった世帯へのFAXや電話でのやりとりなどで体と心の見守りが行われた。

また、福島県富岡町では、県外へ避難し災害FMの電波が届かない住民に向けて、災害FMの内容をインターネット配信するという取り組みも行われた。

必要な支援2:移動支援

地方など、車がないと生活が成り立たないような地域も多数存在する。

そうした地域が被災し広域避難になると、移動困難なケースが多発する。

例え車で20分ほどの隣接市町村であっても車がなかったり、免許返納している場合などは自宅との行き来ができない。

自宅だけでなく、買い物やかかりつけ病院などへ出かけられないといったケースもある。

出かける機会が減ってしまうと、運動量低下や生活のハリがなくなってしまう。

特に高齢者にとっては、心身の老化促進などにも発展する大きな問題である。

企業の移動スーパー事業が実施されている地域や、カーシェアリング協会のサポートを受けて地域でのカーシェアリングを実践している地域、移動支援NPOがサポートした事例もある。

必要な支援3:交流支援

避難先で知り合いがおらず、ふさぎこんでしまうような人もいる。

心身の健康を保ち、関連死や孤独死を防ぐ取り組みが必要である。

もとの地域にいた方たちが集まれる機会づくりや、地域に戻ってくる口実をつくる必要もある。

また、支援情報からも遠くなってしまうため、そうした情報提供や相談窓口につなぐ機会作りも重要。

過去には、みなし仮設住宅の入居者を対象とした、食事提供などの交流会や法律や住宅相談スペースを設けたイベントが開催された。

また、熊本地震後に行政から見守り事業の委託を受けた組織が、交流イベントを定期的に開催していた事例もある。